アストンマーティンは、ハイパーカーの新たな頂点を画定するべく、ヴァルキリーの直系後継となる新型車両の開発を正式に発表しました。このプロジェクトの核心は、F1マシンに直接由来する技術を搭載した、社内開発による新型パワートレイン「AMR」です。この名称はアストンマーティン・レーシングに由来し、同社がF1で培った知見を市販車に直接還元するという意志の表れです。
特に注目されるのは、そのハイブリッドシステムの中心をなす、完全新設計の高回転型V12内燃エンジンです。このエンジンは、F1のパワーユニット規制が現在のV6ターボハイブリッドに移行する以前、自然吸気V12やV8が活躍した時代のレースエンジンの哲学を継承し、最高回転数15,000rpmを超える領域を目指して開発されています。これは、現代の市販車ではほぼ絶滅した高回転自然吸気エンジンの系譜を、最新の材料科学と熱力学によって復活させようとする挑戦です。
このV12エンジンは単独で動作するのではなく、F1で「MGU-K」と呼ばれる運動エネルギー回生システムに相当する強力な電動モーターと組み合わされ、ハイブリッドパワーユニットを構成します。電動モーターは、減速時のエネルギーを回生してバッテリーに蓄え、加速時にはエンジンを補助することで、従来の大排気量エンジンだけでは実現不可能な、低回転域からの膨大なトルクと瞬発力を提供します。総合出力は1,500馬力に達すると見られ、これはヴァルキリーの1,160馬力を大幅に上回る数値です。
パワーユニットの開発と製造は、アストンマーティンのF1チームの本拠地であるイギリス・シルバーストンに隣接する新しい施設で行われる予定であり、レーシング部門と市販車部門の協業を象徴しています。車両プラットフォームは、ヴァルキリーと同様にカーボンファイバー製モノコックを採用し、極限の軽量化と剛性を追求します。空力デザインには、F1やル・マン・ハイパーカークラスで得られたデータが大量に投入され、アクティブエアロダイナミクスシステムによって、コーナリング、ブレーキング、直線加速の各局面でダウンフォースと空気抵抗を最適化します。
インテリアは完全な運転者中心主義に基づき、競技用マシンのような機能性と、アストンマーティンらしい洗練された素材の使い方が融合されると期待されます。生産台数はヴァルキリーよりもさらに限定され、わずか数十台となる見込みで、2025年後半に最初のプロトタイプが完成し、2026年からの納車開始が計画されています。この「AMR」パワートレインを搭載した新型ハイパーカーは、電動化が進む自動車業界において、内燃エンジンの到達可能な最高峰を証明するとともに、アストンマーティンがF1での活動を如何に製品に昇華させるかを世界に示す、極めて重要なモデルとなるでしょう。